「養育費が支払われなくなるのが不安」
「合意した養育費を元夫が払わない」
「離婚時に慰謝料を決めたのに一部しか支払われない」
当事務所では、このような相談を受けることがあります。
家庭裁判所の調停で合意した養育費や慰謝料についても、支払われなくなることがあります。この場合、裁判所を通じて相手方の財産などを差し押さえ、支払いをさせることを「強制執行」と呼びます。
強制執行に必要なもの
強制執行には、「債務名義(さいむめいぎ)」と呼ばれるものが必要です。
債務名義は以下の3つです。
- 裁判所が作成した「調停調書」
- 裁判所での「確定判決」、もしくは「仮執行宣言付き判決」
- 強制執行に服する旨が記載された「公正証書」
単なる合意書や契約書だけでは「債務名義」になりませんので、注意が必要です。契約書しかない場合、契約書を証拠として裁判を提起し、勝訴判決を獲得しないと、強制執行できません。
強制執行で差し押さえられるもの
強制執行で差押えが可能なものは、以下のようなものです。
- 相手方の給与
- 相手方名義の預貯金
- 相手方名義の不動産
注意点は、これらの財産は差し押さえしようとする側で特定し、裁判所に示さなければならないということです。つまり、相手方の勤務先が不明だったり、すでに転職したりしている場合や、使用している口座が分からないと、強制執行が困難になってしまうのです。裁判所側で探してくれることはありません。
なお、差押え手続きにおいては、給与差押えであれば勤務先、口座差押えであれば銀行の担当支店のことを「第三債務者」と呼びます(「債務者」は相手方です)。
強制執行の手続き
裁判所への申立
「申立書」や「債務名義」などの必要書類をそろえ、「第三債務者」を特定して、裁判所に申し立てます(郵送も可能)。
不備がなければ、裁判所から勤務先や銀行などの「第三債務者」に対して、「差押命令」が発送されます。
第三債務者からの回答書面送付
裁判所からの差押命令を受けて、第三債務者側からは、回答書面が送付されます。回答書面には、債務者が現在勤務しているか否か、預金があるか、預金があるなら残高は何円か、ということが記載されています。
もしここで「債務者は勤務していない」、「債務者名義の口座はない」との回答が来ると、差押えは空振りだったということになってしまいます。
第三債務者からの回収
第三債務者からの書面に従い、債権者の側で第三債務者と連絡を取り、振込口座を指定するなどの回収手続きに入ります。
裁判所は回収手続と交渉したりしませんので、債権者が自身で勤務先や銀行とのやり取りを行わなければなりません。
「差押え」というと、昔のテレビドラマでは、突然自宅に入ってきてテレビやテーブルに「差押え」の札をペタペタと貼っていく場面がありましたが、高価な家具や宝石などが置いていない限り、あのようなことは実務上あまりありません。
強制執行を視野に入れ、弁護士へ相談を
このように、強制執行を実際に行うためには何度か段階を経る必要があります。そもそも、養育費などについて合意をする段階で、あらかじめ強制執行を視野に入れておかないと、後から差押え対象財産の特定が困難になる危険もあります。
今現在、約束事を守ってもらえていない方はもちろん、合意に向けて交渉中の方も、将来相手方が不払いをする危険があると思われたら、強制執行を視野に入れた合意をするためにも、専門家である弁護士への相談をお勧めします。
