相続人がいない場合に必要な手続き

近年は少子高齢化や晩婚化、生涯未婚率の上昇に伴い、「おひとりさま」といわれる人たちが増えつつあります。身寄りのない状態で亡くなる人も少なくありません。

亡くなった方(被相続人)に相続人がいない場合、その方の遺産はどのように処理すればよいのでしょうか?

ご自身に身寄りがないために遺産の行方が気になる方や、近親者が亡くなったところ、相続人がいないためにお困りの方もいらっしゃることでしょう。

今回は、相続人がいない場合に遺産を処理するために必要な手続きをご紹介します。

本当に相続人がいないのかを調査する

まずは、本当に相続人がいないのかを調査する必要があります。本当にいないとしても、「相続人がいない」ということを証明できる資料をそろえなければ、必要な手続きを行えない場合もありますので、相続人調査は必ず行いましょう。

相続人調査の必要性

相続人がいない状態には、以下のパターンがあります。

①法定相続人が誰もいない
②法定相続人はいたが、全員が相続放棄をした
③法定相続人はいたが、全員が相続欠格または相続人廃除された

「おひとりさま」といわれる方は、①の「法定相続人が誰もいない」という状態でしょう。

ただ、「身寄りがないから相続人はいない」と思っていても、戸籍謄本等を調査すれば相続人が見つかることも珍しくありません。

比較的多いのは、何十年も前に離婚した相手との間に子がいるケースです。遠縁の甥や姪が相続するケースや、認知した婚外子が相続人となるケースもあります。

相続人を調査するには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得します。

行方不明の相続人がいるときの対処法

相続人がいるものの、その人が行方不明で連絡が取れないということもあるでしょう。たとえ行方不明でも、その人が生存している限り「相続人がいない」ことにはなりません。

その人の行方を捜せる範囲で捜し、警察に捜索願をしても見つからない場合は、家庭裁判所に「失踪宣告の申し立て」をすることができます。

失踪宣告が認められると、その人は死亡したものとみなされるので、「相続人がいない」ものとして手続きを進めることが可能となります。

相続人以外で遺産の引き取り手を探す

相続人がいないことが確定したら、相続人以外で遺産をもらってくれる人を探します。遺産の引き取り手としては、以下の相手が考えられます。

受遺者

受遺者とは、遺言によって財産を取得する人のことです。

被相続人が遺言書を残している場合、その遺言書の中で特定の人に遺産を譲る旨が記載されていれば、その人が財産を取得できます。

現在、身寄りのない方には、誰かに遺産を譲る旨の遺言書を作成することをおすすめします。相続権のない近親者や、第三者でもお世話になった方に遺産を譲る旨を記載するとよいでしょう。

債権者

被相続人に対して債権を有する人は、遺産を引き当てにして債権を回収することが認められます。

例えば、被相続人にお金を貸していた人や、被相続人が住んでいた賃貸住宅の大家などが債権者に当たります。

特別縁故者

被相続人と特別に親しい関係にあった人は、「特別縁故者」として遺産を取得することができる場合があります。

特別縁故者に当たるのは、例えば以下のような人です。

  • 内縁の配偶者
  • その他、法律上の親族関係はないものの同居していた人(息子の嫁など)
  • 介護や療養に努めていた人

特別縁故者が遺産を取得するためには、家庭裁判所に「特別縁故者への財産分与の申し立て」を行い、許可を得る必要があります。

遺産の引き取り手が誰もいない場合や、引き取り手がいる場合でも残った遺産がある場合、最終的にその遺産は国庫に帰属することになります。

遺産を国に引き取ってもらうためには、次にご説明する「相続財産管理人選任の申し立て」を行います。

相続財産管理人の選任を申し立てる

亡くなった方に相続人がおらず、他に遺産の引き取り手もいない場合には、相続財産管理人選任の申立てを行うことになります。

申立ての方法

利害関係人または検察官が、亡くなった方の最後の住所地にある家庭裁判所に申し立てます。

利害関係人とは、相続人ではないものの遺言で遺産を取得する人(受遺者)や、被相続人の債権者(相続債権者)、特別縁故者などです。単なる近親者や知り合いの方が申し立てても受け付けられない可能性がありますので注意が必要です。

申立ての際に必要となる主な書類は、以下のとおりです。

  • 申立書
  • 戸籍謄本(相続人がいないことを証明できるもの)
  • 被相続人の財産を証明できる書類
  • 被相続人の債務を証明できる書類

申立書の書式は家庭裁判所にありますし、必要書類についても家庭裁判所で教えてもらうことができます。自分でできる人もいますが、難しいと感じたり、自分でできる自信がない場合はまずは弁護士に相談することをおすすめします。

選任後の手続き

特に候補者がいない場合、相続財産管理人には地元の弁護士が選任されるのが一般的です。選任されたら、その後の手続きは相続財産管理人と家庭裁判所に任せます。

参考までに手続きの流れをご紹介しますと、以下のとおりです。

【相続財産管理手続きの流れ】

①相続財産管理人が選任された旨の公告(2ヶ月)
  ↓
②相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告(2ヶ月以上)
  ↓
③相続人捜索の公告(6ヶ月以上)
  ↓
④特別縁故者への財産分与の申立て(3ヶ月以内)
  ↓
⑤財産の引渡し(遅滞なく)
  ↓
⑥残った財産があれば国庫への引継ぎ

以上のように、相続人や受遺者、債権者、特別縁故者の捜索が改めて行われます。これらの人がいる場合は、家庭裁判所へ申し出ることによって、相続財産管理人から財産の引き渡しを受けることができます。

なお、金銭以外の財産については、必要に応じて随時、売却されて換金されますので、現金での受け渡しとなるケースが多くなっています。

以上の手続きによっても処理できなかった財産があれば、相続財産管理人が国庫に引き継いで、手続きは終了します。これにより、亡くなった方の遺産の処理は完了です。

困ったときは弁護士に相談しよう

相続人が誰もいなくて、受遺者もいない場合は、相続財産管理人の選任等を行わないと、亡くなった方の遺産の処理ができません。

現在、身寄りがない方は、遺言書を作成して財産の引き取り手を指定することをおすすめします。

いざ遺言書を書こうとすると分からないこともあると思いますが、そんなときは弁護士にご相談ください。弁護士は、詳しいお話を伺った上で正確な遺言書を一緒に作成することもできます。

近親者や知り合いの方が亡くなり、相続人がいないためお困りの場合も、弁護士にご相談いただければ解決策が見つかるはずです。

遺言さえあれば、希望に沿った形で遺産を処理することができる場合は、少なくありません。

まずは気軽に、弁護士に相談なさってみてはいかがでしょうか。