相続にも時効がある?
相続にも時効があることをご存知でしょうか?
遺産分割をすること自体に時効があるわけではありませんが、相続にはさまざまな手続きがあり、その中には時効が定められているものもあります。時効期間が過ぎてしまうと取り返しの付かないことにもなりかねません。
今回は、相続に関して知っておくべき時効制度について、ひと通りご説明します。遺産相続に直面している方は、しっかりとご確認ください。
遺産分割に時効はない
亡くなった方(被相続人)の遺産をいつ分けるべきかについて、法律上の決まりはありません。理論上は10年後でも20年後でも、他の相続人に対して「私の相続分に当たる財産をください」と請求することができます。
つまり、「遺産分割請求権」に時効はありません。
ただし、遺産分割協議で全員が合意し、遺産分割協議書を作成した後は、合意を蒸し返して財産を請求することは基本的にできません。
また、いつまでも遺産分割をしないでいると、以下でご紹介する時効制度によって困った事態に陥る可能性もあります。
身内の方がなくなった後、葬儀や法要が一段落したら、速やかに遺産分割を行うようにしましょう。
遺産分割にまつわる時効制度
遺産分割がスムーズに完了した場合は問題ありませんが、何らかの問題が生じることもあります。その場合に備えて、以下の3つの時効制度を知っておくことが大切です。
相続放棄の時効は3ヶ月
相続放棄の手続きの時効(期限)は、相続開始を知ったとき(多くの場合は被相続人が亡くなったとき)から3ヶ月です。
相続放棄は、主に被相続人に借金がある場合や、他の相続人との相続トラブルを回避したい場合などに行われる手続きです。
3ヶ月が経過した後は相続放棄ができなくなり、借金を相続してしまう可能性もあるので注意が必要です。
遺留分侵害額請求権の時効は1年
遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始を知ったときから1年、相続開始または遺留分を侵害されたことを知らなかった場合は10年です。
遺留分とは、被相続人の遺言をもってしても奪われない最低限の相続分のことです。不公平な内容の遺言書などによって遺留分を侵害された場合は、他の相続人に対して遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができます。この権利のことを「遺留分侵害額請求権」といいます。
相続回復請求権の時効は5年
相続回復請求権の時効は、相続権を侵害されたことを知ったときから5年、そのことを知らなかった場合は20年です。
相続回復請求権とは、相続欠格や相続人廃除によって相続権を剥奪されたにもかかわらず遺産を取得した人に対して、本来の相続人が遺産を返還するように求めることができる権利のことです。
税金に関する時効
相続が発生すると、相続税や贈与税がかかることがあります。それぞれについて、申告期限と、納税義務の時効を正確に知っておくことが大切です。
相続税の申告期限は10ヶ月
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月です。納税義務の時効は申告期限の翌日から5年ですが、故意に申告しないなど悪質な場合は7年となります。
理論上は時効期間が経過すれば納税を免れますが、実際には時効が成立するケースは極めて少ないと言われています。無申告は発覚する可能性が高く、税務署から督促を受けた時点で時効期間がリセットされるからです。
発覚すると本来の税額に加えて、無申告加算税や重加算税、延滞税などが課せられるため、納税の負担が重くなります。相続税がかかる場合は、必ず10ヶ月以内に申告・納税を済ませるようにしましょう。
贈与税の申告期限は翌年の3月15日
生前贈与を行っていた場合、その金額によっては贈与税を納める必要があります。
贈与税の申告期限は贈与が行われた翌年の3月15日で、納税義務の時効は申告期限の翌日から6年、故意に申告しないなど悪質な場合は7年となります。
相続税と同様、時効で納税を免れることは困難であり、発覚した場合には重いペナルティが課せられます。必ず期限内に申告・納税を行いましょう。
その他、相続に関して注意が必要な時効制度
相続に関連して問題となる時効制度は、まだあります。以下の3つの時効制度を覚えておくとよいでしょう。
債務の消滅時効は5年または10年
借金の返済義務などの債務は、次のうちどちらか短い方の期間が経過すると消滅時効にかかります。
・債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年
・客観的に権利行使が可能となったときから10年
例えば、借金を相続した場合でも、被相続人が最後に返済したときから5年が経過すると、消滅時効を援用することによって返済義務を免れることが可能です。
なお、2020年3月以前に生じた債務については、古い法律が適用されるため、消滅時効期間は以下のようになります。
- 個人からの借金の返済義務…10年
- 業者からの借金の返済義務…5年
消滅時効が完成しているかどうかの判断は難しいことも多いので、弁護士に相談して確認することをおすすめします。
預金債権の消滅時効は5年
消滅時効に関しては、預金債権も5年で消滅時効にかかるということに注意しましょう。
預金を相続した場合、被相続人が最後に預金を引き出したときから5年が経過し、その金融機関に時効を援用されると、その預金は金融機関のものとなってしまいます。
実際には、銀行等は消滅時効を援用せず払い戻しに応じてくれることが多いですが、法律上は消滅時効にかかりますので、早めに遺産分割を完了した上で払い戻し、または名義変更をしておきましょう。
取得時効の期間は10年または20年
遺産分割請求権に時効はないと申し上げましたが、他者が遺産を時効取得すれば、遺産分割の請求ができなくなってしまいます。
取得時効は他者が遺産の占有を始めたときから進行し、時効期間は以下のとおりです。
- 自己の物と信じたことに過失がない場合…10年
- 自己の物と信じたことに過失がある場合…20年
例えば、長男が他の相続人に遺産を分けることなく実家に住み続けて亡くなった後、長男の子どもが「父親から相続したから自分のものだ」と信じて住み続けたような場合に、時効取得する可能性があります。
このような事態を防止するためにも、遺産分割は速やかに行っておくことが大切です。
相続の時効が気になる方は弁護士に相談を
遺産相続の手続きは、さまざまな期限を守り時効が完成するまでに行わなければ、思わぬ不利益を受ける可能性があります。
とはいえ、大切な方が亡くなり、ご心痛の中で遺産相続の手続きを進めていくことは大変なものです。お困りのときは、早めに弁護士にご相談ください。
相談するだけでも気持ちが楽になり、手続きを進めやすくなることでしょう。ご依頼いただければ、複雑な手続きは弁護士が代行します。
弁護士の力を借りて、遺産分割を速やかに、かつ、円満に完了させましょう。