後遺障害による逸失利益とは

損害賠償金

交通事故によるけがで後遺障害が残ると、今後の仕事や日常生活にも支障を来すことになり、将来にわたって損害が発生し続けることになります。事故前のように仕事ができなくなり、収入が減ってしまうこともあるでしょう。

後遺障害に対する損害賠償金として、慰謝料だけでなく、「逸失利益」というものを受け取ることができます。事故で負ってしまった後遺障害を元に戻すことができない以上、逸失利益を適正に計算して請求することが大切になります。

この記事では、後遺障害による逸失利益について詳しくご説明します。

逸失利益とは

まずは逸失利益とはどのようなものなのかを確認していきましょう。

将来の損害が賠償される

逸失利益とは、交通事故に遭わなければ将来に得られたはずの利益のことです。

後遺障害が残ると、仕事に支障を来して収入が減少すると考えられます。そこで、今後得られるはずだった収入との差額が賠償金として支払われます。

慰謝料は後遺障害によってつらい思いをする精神的苦痛に対して支払われるのに対して、逸失利益は収入の減少を補填するために支払われるという違いがあります。

また、休業損害と逸失利益も別の賠償金です。休業損害は症状固定に至るまでの間に、治療のために仕事を休んだことによって収入が減少した場合に支払われます。症状固定のときを境として、すでに減収した分は休業損害、今後減収すると考えられる分は逸失利益として賠償されることになります。

遺障害逸失利益は高額になることがある

逸失利益は後遺障害が残った場合だけでなく、死亡事故の場合も支払われます。

被害者が死亡した場合、将来の利益は100%失われますが、今後の生活費はかからなくなります。そのため、賠償金から将来の生活費が一定の割合で控除されます。しかし、後遺障害が残った場合、被害者は生活していかなければなりませんので、生活費が賠償金から控除されることはありません。

したがって重度の後遺障害の場合は、死亡事故よりも逸失利益が高額になることがあるのです。

後遺障害逸失利益の計算方法

次に、後遺障害逸失利益の計算方法をご説明します。保険会社が示した計算金額が正しいとは限りませんので、しっかり押さえていきましょう。

計算式

後遺障害逸失利益の金額は、次の計算式によって求めます。

基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

それぞれの要素について、以下でご説明します。

基礎収入額

基礎収入とは、被害者が交通事故に遭う前に得ていた収入です。働いて収入を得ていた人ばかりではないので、以下のようにして決められます。

給与所得者の場合

原則として、事故に遭った前の年の収入が基礎収入となります。源泉徴収票の「総支給額」の欄に記載されている金額が対象となります。

ただし、若い人などで将来的により高い収入が得られる可能性が高い場合は、「賃金センサス」による平均賃金を基礎収入とするケースもあります。賃金センサスとは、政府が毎年行っている調査に基づいて、平均賃金を労働者の性別、年齢、学歴などの別にまとめた資料のことです。

自営業者の場合

事故に遭った前の年の所得が基礎収入となります。確定申告書の所得金額が対象となりますが、固定経費の一部を含めることができます。

確定申告をしていない場合や、過小申告をしている場合は、実際の収入を証明できればその収入額を基礎収入とすることができます。

会社役員の場合

役員報酬については、労働の対価として支払われていた部分のみが基礎収入となります。労働とは無関係に支払われていた利益配当部分は基礎収入の対象となりません。会社役員と言っても、一人会社や零細企業では労働対価部分がほぼ100%となっていることが多いと考えられます。

主婦・主夫の場合

主婦や主夫として主に家事労働をしている場合は、基本的に「賃金センサス」における女性の全年齢の平均賃金が基礎収入となります。男女で格差が生じないように、主夫についても女性の平均賃金で計算されます。

家事労働のほかに仕事もしている兼業主婦(主夫)の場合は、実際の収入と平均賃金を比べて高いほうが基礎収入となります。

無職の場合

無職の場合は、基本的に基礎収入がないので、逸失利益を請求できないとも考えられます。しかし、事故に遭ったとき、定職についていないからと言って、将来にわたって収入を得られないとは言えません。

意欲と能力があり、実際に仕事に就く蓋然性があった場合は逸失利益の請求が認められます。その場合の基礎収入は、これまでの経歴や前職での収入などを参考にして決められます。

子どもや学生の場合

まだ働いていない子どもや学生も、将来働いて収入を得ると考えられますので、逸失利益の請求が可能です。基礎収入は「賃金センサス」の年齢別あるいは学歴別の平均賃金や全労働者平均賃金によるのが一般的です。

労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害の影響でどの程度仕事に支障を来すのかを表す割合のことです。具体的な割合は、次の表のとおり後遺障害等級に応じて定められています。

後遺障害等級労働能力喪失率後遺障害等級労働能力喪失率
1級100%8級45%
2級100%9級35%
3級100%10級27%
4級92%11級20%
5級79%12級14%
6級67%13級9%
7級56%14級5%

労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、逸失利益の支払い対象となる期間のことです。基本的には、67歳から症状固定のときの年齢を引いた年数となります。

ただし、子どもや幼児の場合は原則として18歳から67歳までの49年、大学生の場合は大学卒業時から67歳までの年数となります。

高齢者の場合は、67歳までの期間が短いか、すでに67歳を超えていることがありますので、統計上の平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。

ライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは、賠償金から中間利息を控除するために用いられる数値のことです。

逸失利益の賠償は、将来に得られるはずの利益を前倒しで支払うものですので、その間の利息運用益を控除する必要があります。その計算をするために用いられるのがライプニッツ係数です。

具体的な数値は、労働能力喪失期間に応じて定められています。国土交通省のページに掲載されていますので、参考にしてください。

参考:就労可能年数とライプニッツ係数表

後遺障害逸失利益の計算例

それでは、例を挙げて実際に後遺障害逸失利益を計算してみましょう。

症状固定時40歳の男性会社員が交通事故でむち打ちとなり、後遺障害等級14級に認定されたとします。事故前の年収が500万円だったとすると、逸失利益の計算例は以下のようになります。

500万円(基礎収入額)×5%(労働能力損失率)×4.580(ライプニッツ係数)=114万5,000円

注意が必要なのは、14級の後遺障害では労働能力喪失期間が2年~5年に制限されることが多い点です。14級は障害の程度が最も軽く、やがて労働に順応していくと考えられているためです。

計算例では、労働能力喪失期間を5年と仮定していますが、後遺障害等級14級でも100万円単位の逸失利益を受け取れる可能性が十分にあります。適正に計算して請求することが大切です。

弁護士に依頼すると金額アップが期待できる

このように後遺障害逸失利益の計算方法は決まっていますが、実は弁護士に依頼することで、保険会社の提示額よりも金額が上昇することがあります。

逸失利益の計算では、後遺障害等級と労働能力喪失期間が決め手となります。後遺障害等級が適切に認定されていれば、後遺障害等級を争う余地はありません。認定結果や内容に納得がいかない場合は、異議申立てをすることにより、より高い等級の認定を求めることを検討されてはいかがでしょうか。高い後遺障害等級が認定されると、労働能力喪失率が高くなり、労働能力喪失期間も長くなります。

また、14級の後遺障害で、裁判例では労働能力喪失期間5年と認定されるような事案でも、保険会社の示談案では3年で計算されていることがよくあります。弁護士のサポートを受けて、これらの要素を本来の数値に正すことで、逸失利益の金額アップが期待できるでしょう。

後遺障害が認定されるけがは、決して軽いものではありません。お金をもらうよりも元の体に戻してほしいという声もよく聞きますが、弁護士にできることは適正な賠償金による補償を受けることのお手伝いです。交通事故による後遺障害で将来にわたって損失を被る以上、適正な金額の賠償金を受け取るべきだと考えます。

お困りのときは弁護士がサポートしてくれますので、お気軽に相談してみてはいかがでしょうか。