自転車と歩行者の接触事故
自転車による歩行者との事故で高額賠償のリスク
自転車で歩行者をはねて死亡させたことがニュースで報道されるなど、自転車と歩行者の交通事故は身近なものになっています。自転車と言ってもロードバイクやクロスバイクであれば相当なスピードが出るため、衝突時の衝撃は大きく、交通事故の被害も大きくなっても不思議ではありません。一方、普通の自転車であっても、歩行者が高齢者で転倒して骨折したり、速度と衝突状況によっては大きな人身被害が発生しかねません。
神戸地裁平成25年7月4日判決は、事故当時11歳の児童の自転車が歩行中の62歳女性と衝突し、歩行者の女性が意識不明(自賠責保険の後遺障害等級1級相当)になった事案です。この判決では、児童の母親に対して総額9000万円を超える損害賠償請求が認められています。
自転車による事故の場合、ケガが軽微なものであっても、治療費や慰謝料等の支払が必要になります。意識が戻らないような重大な後遺障害を残した場合には、さきほどのように何千万円もの高額な賠償金が認められることもあります。
ここでは自転車(加害者)が歩行者(被害者)に衝突し、歩行者がケガを負ってしまった場合について、歩行者側の過失が少ない、またはないという状況で説明します。
過失割合
まず、過失割合について問題となります。自転車が歩行者に追突した場合には、自転車に全面的な過失があり、歩行者の過失はゼロです。一方、自転車と歩行者ともに過失がある場合には、その過失割合が問題になります。過失がある場合にはその割合に応じて損害賠償額が減額されるため、受け取る損害賠償額への影響は小さくありません。また、事故が避けようがなかったにもかかわらず、過失アリとすることに納得がいかないこともあります。過失割合で納得がいかない場合は、弁護士に相談するなどした方が良いでしょう。
人身損害の負担
自転車事故により歩行者にケガを負わせてしまった場合には、後遺障害が認定されるようなものでなければ、歩行者のケガによる主な損害として次のものが考えられます。
- 治療費
- 通院のための交通費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
さらに、後遺障害が認定されるような重いケガの場合には、主な損害として次のものが考えられます。
- 治療費
- 通院のための交通費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 逸失利益
- 後遺障害慰謝料
歩行者側でできること(被害者側)
自転車保険などに加入している場合は保険会社へ請求
まず被害者である歩行者としては、自転車側が自転車保険・個人賠償責任保険などの保険に加入していれば、その保険会社に対して治療費等を請求します。保険会社が自転車側に代わり、示談交渉を代行することもあります。
自転車保険などに未加入であれば、直接、加害者へ
加害者が自転車保険などに入っていない場合、自転車には自動車と異なり自賠責保険がないため、加害者に対して治療費等を請求することになります。
弁護士費用特約の確認を
ここで過失割合の判断に加え、治療費以外に何をどれだけ請求できるのかが問題になります。自転車側が保険に加入しているのであれば、保険会社から損害賠償金の提示などがあるでしょうが、その金額が正しいのかも分かりません。
また、歩行者側のケガが重いような場合には、心理的に、自転車側の保険会社と交渉することも不安になることもあります。
歩行者側としては、自分、ご家族の自動車保険や火災保険などを確認することとお勧めします。自動車保険や火災保険の特約には弁護士費用特約があります。弁護士費用特約が使用できる場面が分かりづらい方も多いように感じますが、自動車による交通事故以外にも、自転車に衝突された場合にも利用できるものがあります。弁護士費用特約が利用できるのであれば、歩行者側として被害を受けた損害の示談交渉・訴訟等に伴う弁護士費用を特約で負担してもらうことができます。
例えば、弁護士費用特約は契約者以外にも同居の家族、未婚のお子さまをカバーすることが多く、次のような場合も、弁護士費用特約(自動車事故に限定していない場合、日常生活型)が利用できることがあります。
・妻が歩行中に自転車に衝突された(保険契約者は夫)
・子供が散歩中に、自転車に衝突された(保険契約者は父または母)
・同居の父親(高齢)が歩いて移動している最中に、自転車に追突された(保険契約者は同居の息子)
人身傷害特約(自動車搭乗中以外も補償タイプ)を利用することも
自転車側が自転車保険等に入っておらず、さらに治療費を支払う経済力がない場合も考えられます。
歩行者側で人身傷害保険が自動車に乗車中以外も補償する内容であれば、歩行中や自転車を運転中など車外での自動車事故人身傷害保険に対して、治療費や慰謝料などを請求することができます(ただし、人身傷害保険会社の基準による金額)。
自転車側でできること(加害者側)
まず、自転車側ではスピードを出しすぎない、安全確認をきちんとして事故を起こさないように意識する必要があります。自転車だから許されると思って、危険な運転をしているといつ加害者になってもおかしくありません。
また、加害者となるリスクは自転車でも自動車と同じです。交通事故への備えとして、自転車保険や個人賠償責任保険などに入っておくと安心です。自転車で歩行者と衝突して9000万円を超える損害賠償金が認められた裁判例が存在することを冒頭でお伝えしましたが、後遺障害等級14級相当のケガを負わせてしまったときには300万円程度の損害賠償をする必要があることもあります。
損害賠償金を支払うことができるのかという問題に加え、請求された治療費・慰謝料などが適正なのか判断することが難しいこともあります。
現在は自転車保険への加入義務化がされていて、自転車保険や個人賠償責任保険などに加入するのは自転車に乗る責任の1つとなっています。
個人賠償責任保険についてはこちら
【自転車保険義務化】
扶桑町ホームページはこちら
江南市ホームページはこちら
改めて、自転車事故を含めた保険に加入しているかを確認することをお勧めします。
さいごに 悩んだり、困ったら弁護士に相談を
歩行者側(被害者)にとっては、適切な治療を受けられるのか、適正な損害賠償金が支払われるのか、どのような流れで手続きが進むのかが不安だと思います。
そんなときは、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。弁護士費用特約で相談料が支払われることもございます。ないよりも、交通事故のプロに相談をすることで、見通しがつくだけでも相当な安心感があると思います。
また、不幸にも加害者側になった場合であっても、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。他人には言えない苦しみであっても、弁護士だからこそ相談できることがあると思います。弁護士だからこそ力になれることがあります。
当事務所では相談にお越しいただいた方にできる限りのサポートをしたいと考えております。