相続問題 2021.7.5
おひとりさまの相続
おひとりさまの相続
配偶者や子ども、兄弟姉妹などの相続人がいない、いわゆる「おひとりさま」の相続が近年、増加しています。
ここでは、おひとりさまが亡くなると遺産はどうなるのかを解説し、おひとりさまが生前にできる対策もご紹介します。
おひとりさまの遺産はどうなる?
自分で「おひとりさま」だと思っていても、戸籍を調べてみると遠縁の甥や姪などの法定相続人がいるケースも珍しくありません。その場合、おひとりさまが亡くなると遺産は法定相続人に相続されます。
では、本当に法定相続人が誰もいない「おひとりさま」の遺産はどうなるのでしょうか。
何もしないと、国のものへ
遺産を受け取る人が誰もいない場合、その遺産は国庫に帰属します。つまり、国の所有財産となります。
ただし、遺産が国庫に帰属する前には裁判所で「相続財産管理人」が選任され、所定の手続きが行われます。おひとりさまがお金を借りていた債権者等がいる場合には、その手続きの中で遺産が配当されることもあります。
「相続財産管理人」の選任は、自動的にされるものではありません。債権者や市町村長等が「相続財産管理人」の選任を申し立てることもあります。ただ、「相続財産管理人」の選任の申立がされず、価値が乏しい家屋だけが残っている場合には、近隣の方や関係者が困ってしまうことがあります。
遺言がある場合、遺言により受遺者が取得
人は誰でも、遺言書を残すことによって、自分の死後に遺産を取得する人を指定することができます。
遺言によって遺産の取得者に指定された人のことを「受遺者」といいます。法定相続人だけでなく、第三者を受遺者に指定することも可能です。
おひとりさまが遺言書で受遺者を指定していた場合は、その人が遺産を取得することになります。
特別縁故者が取得することも
特別縁故者とは、被相続人の家族以外で特に親密な関係にあった人のことをいいます。被相続人と生計をともにしていた内縁の配偶者や、被相続人を献身的に看護や介護していた人などがこれにあたります。
おひとりさまに特別縁故者にあたる人がいる場合には、その人が遺産を取得することも可能です。
ただし、「相続財産管理人」が選任され、特別縁故者から家庭裁判所へ「特別縁故者に対する財産分与の申立て」を行い、審判を受けなければならないなどの手続きが必要です。自動的に遺産が与えられるわけではなく、すぐに財産が分け与えられるものではございません。
おひとりさまが生前にやっておきたい対策
おひとりさまが相続対策を何もとらずに亡くなると、遺産を渡したい人がいても渡せなくなってしまいます。渡せることになったとしても、非常に複雑な手続きを要してしまいます。
自分の死後に意思を尊重してもらうためには、生前に以下の対策をとっておくことをおすすめします。
財産をまとめておく
通常の相続の場合でも遺産の把握が難しいケースは珍しくありませんが、おひとりさまの場合は第三者に遺産を任せなければならないため、把握するのが困難なケースが多いです。
預貯金や不動産、有価証券、動産など、ご自身の所有財産をすべてピックアップして、財産目録を作成しておきましょう。
また、近年ではネットバンキングや、各種引き落としの管理に必要なIDやパスワードがパソコンやスマホなどに保管されていて、第三者が見つけにくいという問題もあります。
金銭に関連するIDやパスワードなどのデータはまとめて書き出しておいた方がよいでしょう。
相続人の調査をする
先ほどもご説明しましたが、戸籍を調べてみると法定相続人がいることが判明することも少なくありません。
配偶者や子ども、父母・祖父母などは「いない」ということが自分で分かりやすいですが、甥や姪などは長年交流がないことも多く、そもそも知らないうちに甥や姪がいるというケースもあります。
一度、戸籍を調査して本当に法定相続人がいないかを確認しておいた方がよいでしょう。
遺言書を作成する
遺産を特定の人に渡したい場合は、遺言書を作成しておきましょう。
ただし、遺言書は自分が亡くなった後に見つけてもらえなければ意味がありません。
そのためには、遺産を与えたい人に遺言書を預かってもらい、自分が亡くなったときの対応を含めて依頼するとよいでしょう。
また、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうこともできます(自筆証書遺言書保管制度)。
遺言書を作成するには細かなルールがあり、不備があると遺言書が無効になってしまいます。そのため、できれば遺言書の作成は弁護士に依頼し、公正証書遺言にした方がよいでしょう。
世話をしてくれる人を見つけておく
おひとりさまが相続を考える際には、自分が認知症などで判断能力が低下してしまったときのことも考えておくことが大切です。
裁判所が選任する「法定成年後見人」の制度もありますが、法定成年後見人は自分の意思で選べるものではありません。
それに対して、任意後見人は自分の判断能力がしっかりしているうちに契約を結ぶことによって後見人を選ぶことができます。
任意後見人に資格は必要なく、成人であれば基本的に誰でも選ぶことが可能です。近親者や友人などの中から信頼できる人を選ぶようにしましょう。お世話になる代わりに、その人に遺産を渡す内容の遺言書を作成するのもよいでしょう。
おひとりさまの相続は弁護士へ相談を
相続人がいないおひとりさまも、遺言によって希望する人に遺産を渡すことができます。
ただ、いざ遺言書を書こうとしても、書き方が分からないということもあるでしょう。相続に関する法律は複雑ですので、その他にも分からないことや不安なことが多々あるかと思います。
そんなときは、弁護士に相談することを検討なさってみてはいかがでしょうか。
弁護士は、あなたの希望を詳しく伺い、あなたの意思が亡くなった後に反映されるようにサポートします。
一度しかない人生です。人生の最後をきちんと考え対応することで、今までお世話になった人に遺言で気持ちを伝えることができると思います。一人で抱え込まず、お気軽に弁護士に相談しておひとりさまの相続に備えましょう。